
源流を知って DAW の理解を深めよう!シーケンサー、MIDI 、MTR 、ミキサーなど...
DAW (Digital Audio Workstation)が登場して以来、手軽に音楽制作を始められるようになりました。 しかし、DAW を始めてなんとなく打ち込みはできるようになったものの、いまいち理解しきれないと感じている方もいるのではないでしょうか。 この記事では、現在の DAW に大きな影響を与えている、DAW の源流たちをご紹介します。 源流を理解することで、DAW の機能について理解も深まるでしょう。
DAW の基盤を作るものたち
DAW とは、パソコン上で音楽を作るためのソフトウェアのことです。
また DTM とは、パソコン上で音楽制作をすることを言います。
DAW の登場により、 作曲から録音、ミックス、マスタリングまで、音楽制作における完パケまでを一つのソフトで完結できるようになりました。まさに、音楽制作の工程をまるごと実現できるソフトウェアと言えるでしょう。
それでは、DAW はどのような機材たちの存在を集約し、発展してきたのでしょうか。
DAW の源流を、以下の4つの切り口からご紹介します。
- シーケンサー
 - 音源
 - 録音
 - ミックス
 
シーケンサー
シーケンサーとは演奏情報を記録し、再生することで、自動演奏が実現する機材やソフトウェアのことです。
その起源は意外と古く、オルゴールなどの自動演奏装置も、シーケンサーの原型の一つと言えます。
現代のシーケンサーにつながる機材の登場は1960年代のこと。当時はアナログ・モジュラー・シンセサイザーの制御を目的とした、アナログのシーケンサーでした。
さらに1970年代に入るとデジタル・シーケンサーが普及し、より複雑で正確なシーケンスの作成が可能になります。
シーケンサーは、あくまで演奏情報を記録・再生し、外部の機器に信号を送ることが目的なので、音源は内蔵されていません。
そのため、音源モジュールなどの外部機器と一緒に使用されることが一般的でした。またデータ入力には、本体のテンキーのほかパソコン用のキーボードを使うことが多く、それが“打ち込み”という言葉の原点になっています。のちに、シンセサイザーに内蔵されたり、音源を内蔵した単体シーケンサーも登場しました。
シーケンサーと音源モジュール等の接続に大きな影響を与えたのが、1983年に誕生した MIDI規格です。
MIDI (Musical Instrument Digital Interface)とは、演奏情報や操作情報を、電子機器やPC間でデータ伝達するための規格。例えば鍵盤を押してから離すタイミング、押した時の強さ、音程...などといった演奏の情報のほか、テンポや音色バンク、ペダルのオンオフなども含まれています。
MIDI規格により、これらの情報をシーケンサーからも送信することが可能になりました。接続には、MIDIケーブルという専用の5ピン端子のケーブルを使い、対応した機材同士をつなぐことで、簡単に実現できたのです。
DAW 内のシーケンサーは、MIDIを送受信することができ、これまでハードウェアで行っていたこれらのことを、見やすい UI とパソコンという操作性の良さで、簡単に実現できるようになりました。
そして DAW のシーケンサーは、自動演奏によってライブやレコーディング時の演奏を補助してくれるだけでなく、オリジナルのフレーズを生成できるツールとして、音楽制作時のさまざまな場面で活用されているのです。
MIDI については以下の記事で詳しくご紹介していますので、こちらも是非ご覧ください。
DAW の前進となったソフトたち
1980年代にコンピューターが普及し始めると、音楽制作にもパソコンを活用しようという試みが始まります。
シーケンサーのソフトウェア化もその一つで、当時普及していたパソコン Commodore 64(コモドール64) 向けに、ドイツの Steinberg社 は 「Pro-16」 を開発しました。
このソフトは 、MIDI情報を記録・編集することができるシーケンサーでしたが、音源そのものは外部のシンセサイザーを使用する必要があり、コンピューター単体では音を鳴らすことはできませんでした。
1988年に、Roland社から世界初の DTM製品「ミュージくん」という、製品パッケージが発売されます。
これは、ハードウェアの音源モジュール(MT-32)とPC9801用の MIDIインターフェース(当時はまだ USB が存在していませんでした)、そしてシーケンサー・ソフトをバンドルしたものでした。
この製品を売り出す際に「DESK TOP MUSIC SYSTEM」という文言が使用され、「DTM」というワードが初めて使用されたとされています。
「ミュージくん」に続き、Yamaha社からは「HELLO!MUSIC!」、KAWAI社の「Sound Palette」など、現在の DAW の原型となる多くのシーケンス・ソフトが発売されていきました。
音源
前章でお伝えしたように、シーケンサーは、それ自体に音源が内蔵されておらず、外部のシンセサイザーか、「音源モジュール」と呼ばれる様々な音源が入ったハードウェアに接続して、音を鳴らしていました。
現在は DAW に標準で音源が内蔵されていますし、別途買い足すことができるソフトウェア音源が主流ですが、かつては音源もハードウェア主流の時代があったのです。
マルチティンバー音源
マルチティンバー音源とは、同時に複数の音色を出すことができる音源のことです。今となっては当たり前ですが、これに対応していない音源は、2種類以上の音色を同時に鳴らすことができなかったのです。
マルチティンバー音源が実現したのも、MIDI規格の恩恵によるもので、シーケンサーのトラックごとに別の音色を割り当てることを実現させるためだったのです。
現在 DAW で使用できるソフト音源は、基本的にマルチティンバー音源です。 NativeInstruments の KONTAKT や IK Multimedia の SampleTank などですが、それらを、わざわざマルチティンバー音源と認識している人も少なくなったと思います。
GM音源
GM音源とは、別メーカーの MIDI機器間などで、音色マップやコントロール・チェンジに互換性を持たせるために制定した「GM規格」に沿って作られたマルチティンバー音源のことです。
この規格が制定される以前の音源やシンセサイザーは、音色マップの互換性に乏しく、MIDIデータで演奏情報を共有しても、ピアノの音がギターで鳴ってしまうなど、必ずしも同じ音色で演奏されるわけではなかったのです。
この GM規格が定められたことにより、さまざまな機器間でのMIDIデータの情報共有に、互換性が担保されるようになりました。
録音
DAW が登場する以前のレコーディングは、マイクからの音声信号を受ける「コンソール」と、複数のトラックに録音できる機器「MTR」を使うことが主流でした。
以下は、DAW が登場する前のレコーディングの流れです。
MTR(マルチ・トラック・レコーダー)
現在はレコーディングの際、DAW に音を取り込むことが一般的ですが、DAW 登場以前は MTR で録音していました。
MTRは、複数の録音ソースを個別のトラックに録音できる機材のことです。MTRを用いた録音を、マルチ・トラック・レコーディングと言いますが、トラック(track)は英語で「走路」や「軌道」といった意味があり、陸上のトラックと同じ意味です。
陸上ではトラックにそれぞれの選手が走るレーンが用意されていますが、音楽におけるトラックも、このレーンと考え方が似ています。
トラックごとに音が割り当てられ、そのトラックが重なり、音楽となるのです。例えばトラック1はピアノ、トラック2はギター...などのように分けてレコーディングすることが可能です。

上記は磁気テープにマルチ・トラック・レコーディングを行う例で、1本のテープを複数に分割(データ上で)した上で、それぞれのトラックに同時に、もしくは個別に録音していく仕組みになっています。
マルチ・トラック・レコーダーは、コンソールから送られてきた複数の音声を、トラックごとに録音できますが、この録音方法が登場する前は、全ての楽器演奏を別々に分けて録音することができなかったのです。つまりトラックは1つ(モノラル)だったのです。
このマルチ・トラック・レコーディングの考え方が、DAW の根幹になっていると言えます。DAWでは、トラック数にほぼ制限がないため、100を超えるトラックを作ることも可能です。

ミックス
DAW が登場する前のミックスは、すべてハードウェアで行われていました。アナログのミキシング・コンソールで音量や音質を調整し、必要に応じてアウトボードのエフェクトを使用してサウンドメイクを行っていたのです。
これらの工程を、現在は すべて DAW 上の作業で完結させることが可能です。
ミキシング・コンソール(ミキサー)

ミキシング・コンソール(ミキサー)は、商業スタジオなどでよく見かける、“卓”と呼ばれる音響機器です。
複数チャンネルのオーディオ入出力、各オーディオの調整、またそれらのバランス調整ができます。
チャンネルとは、ミキサーにおける、入力信号の処理系統のことです。
マイクが拾った音はミキシング・コンソールの各チャンネルへと送られ、ミキサー内でオーディオの調整をした上で MTR に送られ、音が記録されます。
ミックス
ミキシング・コンソールの各チャンネルにはエフェクトなどが備わっていて、これで各音を調整することができます。
処理の内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- EQ
 - コンプレッサー
 - ノイズゲート
 - AUX SUND
 - パン
 - ミュート/ソロ
 - フェーダー
 

このような、アナログコンソールの考え方も、DAW に取り入れられています。
たとえば、Logic pro の場合、以下のミキサー画面は、チャンネルストリップが元になっています。

また、外部のエフェクトも、必要に応じて使用されていました。
NEVE社のヘッドアンプや MANLEY社の EQ など、当時使用されていたアウトボードは現在ではヴィンテージ品となり、高値で取引されています。
現在はこのような名機もプラグインによって再現され、さまざまな音のエフェクトを手軽に使えるようになっています。ただし、あくまで再現であり、完全には同じではないため、ハードウェアとプラグインを使い分けているエンジニアも多いです。
まとめ
以上、今回は DAW の源流をご紹介しました。
DAW は、今回ご紹介した源流がまるっと一つになったソフトウェアです。
作曲から録音、ミックス、マスタリングまで、音楽制作における完パケまでを一つのソフトで完結できるようにさせた、まさに音楽制作の工程をまるごと実現できるソフトウェアと言えるでしょう。
DAW の登場により、一般ユーザーでも音楽制作がより身近になりました。プロの中にもDAW のみで音楽を完パケにする人もいます。
とはいえハードウェアにはハードウェアの良さがあり、ハイブリットで制作を進めている方も多くいます。
利用者の状況や制作スタイルに合わせて取捨選択ができるのも、現代の良いところですね。

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。





